【遠隔治療】肩が痛いのになぜ足に鍼を刺すの?【陰陽交互取穴法】

鍼灸

寒河江幹です。

 はり灸の施術では、肩が痛いのに足に鍼。
膝が痛いのに手に鍼ということはよくあることです。
ではどういう理論でそのツボが選ばれているのでしょうか?

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経絡弁証法における選穴方法

ツボ

東洋医学では、気血の流れが悪いところが「痛いところ」ととらえます。
そしてその治療にあたっては、その場所がどの経絡なのかを考えます(経絡弁証)。

  • ① 表裏の関係をみます
     太陰 ⇔ 陽明   手 ⇔ 足  
     少陰 ⇔ 太陽      
     厥陰 ⇔ 少陽  
  • ② 病上取下,病下取上 上 ⇔ 下
      病が上半身にあれば下半身に取穴し、下半身にあれば上半身で取穴する。
  • ③ 巨刺の法      右 ⇔ 左
      病が右にあれば左に、左にあれば右に取穴する。

 

【例題】右膝眼(奇穴)あたりの膝関節痛

膝痛
  膝眼は足の陽明胃経の損傷⇒足の陽明胃経の表裏の関係をまずみます。
① 陽明胃経の表裏関係は「太陰肺経」
② 足 の反対 手
③ 右 の反対 左
よって「左手の太陰肺経」その合水穴の「尺沢」を選穴。

症例1 右側膀胱経のぎっくり腰

① 太陽膀胱経 ⇔ 少陰心経
②  腰(下半身) ⇔ (上半身)手
③  右 ⇔ 左
よって 左手小陰心経の合水穴「少海」および げっ穴の「陰げつ」

症例2 主訴 左側膝関節後方(委中)あたりの痛み

① 委中→膀胱経  ⇔ 少陰心経
②  足 ⇔ 手
③  左 ⇔ 右
よって、右手少陰心経の合水穴「少海」慢性ならば絡穴の「通里」
膝がむくんでいたりした場合には於血をとるために「膈兪」・「三陰交」・「血海」

症例3 主訴 テニスをやって右腕の曲池辺りの肘関節が痛い

① 曲池→陽明大腸経 ⇔  太陰脾経
②   手(腕) ⇔  足
③   右 ⇔  左
よって 左足太陰脾経の合水穴「陰陵泉」
*肘は手の少陽三焦経が同時に障害の場合が多い
 その場合は足の厥陰肝経の合水穴「曲泉

症例4 主訴 右足の親指の激痛(痛風)による歩行障害

① 太陰脾経 ⇔ 陽明大腸経と厥陰肝経 ⇔ 少陽三焦経 の2経絡が考えられる。
② 足 ⇔ 手
③ 右 ⇔ 左
よって 左陽明大腸経の合土穴「曲池」 と 手の少陽三焦経の合土穴「天井」
痛風なのでげっ穴の「温溜」と「会宗」 と 阿是穴

 

症例5 主訴 右肩関節痛と右腕の挙上障害 肩りょう(少陽三焦経)の痛み

腹診をしてみると帯脈(少陽胆経)に圧痛がある。

① 少陽三焦経 ⇔ 厥陰肝経 と 少陽胆経 ⇔ 厥陰心包経
② 足又は胴 ⇔ 手
③ 右 ⇔ 左
よって 足の厥陰肝経の原穴「太衝」と手の厥陰心包経原穴「太陵」
また帯脈の場合 足臨泣+(陽維脈の主治穴)「外関」のセット鍼
*奇経八脈の治療は、その主治穴である八総穴を組み合わせて行う

問題 以下の主訴の選穴をせよ

  • 問1 右手首が痛く、探ってみると一番圧痛があるのが「太淵」辺りだった。
  • 問2 右の肩関節が痛む。探ってみると「肩グウ」辺りだった。
  • 問3 左の肩が後ろに回すと痛む。探ってみると「臑兪穴」辺りだった。
  • 問4 左の足関節・踵骨内側が痛く、足が地につけられない。

陰陽交互取穴法の治療手順

太淵
  1. 治療前の状態の把握  
     注意: 患者が漠然と痛みを訴え、どの経絡に相当するか判断できない場合はこの治療法は適当ではない
  2. 取穴 基本的に反対側の合穴またはげっ穴に取穴する。
        両側に置鍼してもよい。
        15分間置鍼し5分ごとに撚鍼雀啄して得気を強める。
  3. 患部の運動 15分の置鍼中、患部を運動させる。
    :肩関節の場合は肩を動かす。
  4. その後、阿是穴に置鍼
  5.   痛みを感じる部位(阿是穴)を尋ねてそこに置鍼する。

  6. 痛みが再発したら
     他の原因、例えば於血・水毒・脾位の機能障害などを伴う時は原因を取り去る処置をする。

回答

  • 問1 左の足三里 または 梁丘

      解説:太淵は手の太陰肺経 その表裏にあたるのが足の陽明胃経 その合穴は「足三里」げっ穴「梁丘」
         実際の臨床の時は太淵は兪土穴だからその母にあたる火穴の「解谿」でもよい。

  • 問2 左の陰陵泉 または 地機

      解説:肩グウ穴は手の陽明大腸経 その表裏にあたるのが足の太陰脾経 その合穴「陰陵泉」げっ穴「地機」
         実際の臨床の場合は同じ同経の陽明胃経を選択する場合もある。その合穴「足三里」

  • 問3 右の陰谷 または 水泉

      解説:臑兪は手の太陽小腸経 その表裏にあたるのは足の少陰腎経 その合穴「陰谷」げっ穴「水泉」 
         実際の臨床の場合、陰谷では置鍼中運動するのに都合が悪いので「太谿」または「復溜」でもよい。

  • 問4 右の小海 または 養老

      解説:足関節の踵骨内側というと太谿あたりと推測できる。
         太谿は足の少陰腎経 その表裏にあたるのは手の太陽小腸経 その合穴「小海」または げっ穴「養老」