【脈診】証のとり方の手順と施術方法~証がわかってもその後がわからなければ治りません~

鍼灸

セラピストトレーナーズカレッジ講師の寒河江幹です。

  漢方やはりきゅうの場合、「証」を決定するのに脈診をします。多くの指南書では脈診をして「証」を決定するまでを教えています。しかし、その先まで教えているのはあまり見かけません。今回、「証」を決定しその後の施術まで実践的な流れを教授します。

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患者さんが来ました。「望診」「問診」

問診

<望診> 特徴がある場合を列挙します。
 顔を見る → 白い → 肺虚かな?
 耳を見る → 黒い → 腎虚かな?
 口を診る → 黄色い → 脾虚かな?
 顔面・目の結膜 → 青い →肝虚かな?
眉間や舌を見る → 赤い → 熱があるのかな?

<問診>
「どうされましたか?」 
「今までかかった病気などありますか?今治療している病はありますか?」(既往歴)
「痛みますか?」→疼痛あり → 緊脈かな?(「緊脈の場合・数も伴う)

(女性の場合)「冷え性はありますか?」 → ある → 腎虚かな? 
(高齢の場合)「血圧の薬は飲んでますか?」→飲んでいる 
       → 更年期婦人に多く血圧の高すぎる沈脈 = 「緊脈」かな?

脈診

風邪の経絡

「証」は基本的に以下の4つです。そして、その証の場合取穴する穴を列挙します。

肺虚:太淵 (肺経兪土穴)
腎虚:復溜 (腎経経金穴)
肝虚:曲泉 (肝経合水穴) 
脾虚:太白 (脾経兪土穴) *本来、大都(脾経栄火穴)だが火穴故に避ける傾向がある。

これらに補法を行って、脈が整うか確かめる。

【手順1】中(平)脈:まず一番強い脈(胃の脈)をみる

 女性は右手の脈が左より大であり、尺脈が強い。
男性は左手の脈が右より大であり、寸脈が強い。
肥満者の脈は「沈」が正常とされる。
女性の「尺中の実」は子宮関係:「れい溝」(中封上方5寸)に多壮灸
男性の「尺中の実」は肺がんや静脈瘤など重篤病気が存在する場合あり

 数:1呼吸に5拍以上  急性病 熱があるのでは?
 遅:1呼吸に3拍以下  慢性病→長期の加療が必要 
            「きちんと眠れていますか?」→疲れ
      (女性には)「冷えはありますか?」*問診で聞いてない場合

【手順2】浮かして陽経を診る

 浮脈とは、軽く触れて強く感じる脈のこと(逆に強く押すとわからなくなる脈)

 力があれば 実脈 :「大腸実」=「肺虚」:「太淵」に補
*「肺虚」で後頭部が凝っているときは「志室」「「列缺」に補鍼
 力がなければ 浮虚 
【治療法】「委中」「飛陽」に浅刺補鍼した後「崑崙」に雀啄。抜鍼は閉じない。

【手順3】沈めて陰経を診る

 沈脈とは、強く抑えてわかってくる脈
 
 沈・数:交感神経の興奮 → イライラ・頭痛・肩こり・耳痛
 沈・遅:内分泌系・自律神経系 → 不眠・耳鳴り・めまい・腰痛・肩こり・冷え

【手順4】 左寸口の脈位を診る(他の指は浮かす)

<沈める>
 左寸口の指を沈める「沈」で力がある脈 =「緊脈」 → 交感神経の緊張が強い 
 沈脈は腎虚 → 復溜を補

 脈が細い=「細脈」:低血圧症・頚・肩のこり・背中のハリ・腰のこわばり

 「細・緊・数」→ 「照海」「兪府」に置鍼20分  瘀血症:左中封に雀啄
  *眼精疲労の場合→眼窩周辺の刺鍼
 
「緊」は「沈」(=沈んで小さい脈)で力のある脈・不揃いで力がある。
「洪」は「浮」で大きく力のある脈 *洪は疾病の亢進を表す
「洪」は浮き立ち浪の如くにて広く大きく満ちくるなり。

 「緊・数」 → 「築賓」(腎経:内果上方5寸 解毒の特効穴)「兪府」
 「洪・数」 → 「関元」(神闕:臍下3寸)にて後が消失するまで雀啄

まれに「弦」脈がある。ギターの弦を押さえたような筋張った強さのある脈。
これは「肝の邪気」のため「弦・数」には
「陽輔」(胆経:外果尖上方4寸)の圧痛を確かめ
「血海」(脾経:膝蓋骨の内上角2.5寸)
「気海」(神闕下方1.5寸)を補う。

 「緊」は「数」を伴うので「緊・遅」はない 
 「緊」は疼痛を伴う
 「洪」は疾病の亢進を現す 

 「洪・遅」 → 「腎兪」に灸頭針 または 肝経の「左中封」に雀啄(瘀血処置)

【手順5】右関上の脈位を診る(浮かして脾の脈を診る)

<浮かす>
 「緩」か「浮」か?
  どちらも強く押す(沈める)とわからなくなる脈。
  「緩」はゆったりとしてしっとりして幅が広い脈。

「緩脈」は「脾虚」 → 膵臓機能の低下=慢性の糖尿病患者に多く見られる 
【「緩脈」の治療穴】
脾虚:太白(脾の原穴)+太衝(肝の原穴)に置鍼20~30分 →「緊・数」に変化
糖尿病性の膝関節疾患の場合:局所治療は避ける 
「陰陵泉」:脾経合水穴
「右関門」:神闕上方3寸の健里穴の右3寸
「脊中」:督脈 第11胸椎12胸椎間

腹診

腹診

【腹診】脈が実で腹が虚の場合、腹証を優先する

「中脘」「右天枢」「左天枢」「関元」「期門」「鳩美」の圧痛を診る

Ⅰ型 三里の証:「中脘」に圧痛(心下痞硬) 膝を立て三里にしたから上へ水平刺(上地式)
   (胃経合土穴)
Ⅱ型 上巨虚の証:右天枢に圧痛 膝を立て三里と同じで上へ向けて水平刺。
   「浮・数」(風邪)の場合は曲池(大腸経合土穴)
         左天枢に圧痛→左会陽(尾骨の下端中央「長強穴」の外方5分)

Ⅲ型 太衝の証:(右期肋部)「期門」「日月」「章門」に圧痛 →胸脇苦満(肝実証)
   (肝経兪土穴)*筋の緊張が強く軽く触れて圧痛がある場合
   *太衝(肝経原穴)に寸6・3番をかかとに向けて全部刺入

   「肝虚証」:「右期門」に圧痛(筋の緊張が弱く、深く押して圧痛を感じる場合)
         右寸口の脈が「沈・実」めまいなどある場合
         右側の「れい溝」(肝経の絡穴)「期門」(肝経の墓穴)に2分間置鍼 
         右合谷に雀啄後1分間置鍼 

ⅳ型 太谿の証:小腹不仁(臍下不仁) 「関元」がふわふわ → 「腎虚証」
   (腎経兪土穴)
   腎虚は「復溜穴」だが 「太谿」を寸3・2番鍼で上(復溜穴)に向けて水平刺(上地式)
                   「関元」が硬結→(瘀血証)左中封雀啄

Ⅴ型 太敦の証:「鳩美」に圧痛 (心下満):症状が激しい場合
   (肝経井木穴)
   *「三陰交」+「陰陵泉」(松本式):症状が普通の場合